摩耗耐性とは、繰り返されるこすれ、滑り、削れなどの機械的作用によって材料の表面で進行する容積の低下に対する耐性のことです。
摩耗耐性がある材料では接触する表面同士の摩擦が最小限に抑えられるため、荷重耐性がある表面同士の接触を伴う用途で部品の形状と完全性がより長く維持されます。
弊社のポートフォリオには、低摩擦特性または自己潤滑性によって摩耗を最小限に抑え、用途における機能標準を維持しながら機械的摩耗を削減する様々なエンジニアリングプラスチックが含まれています。
摩耗、摩擦、潤滑の原則はトライボロジーの分野で研究されています。トライボロジーとは、相対運動における表面間の相互作用に関する科学と技術を指します。
摩耗耐性がある部品は、2つの荷重耐性表面が相互に滑るベアリング、摩耗パッド、ギア、回転シャフトなどでのエンジニアリング用途において不可欠です。
また、摩耗耐性は、摺動面が、効率を最大化するために部品が精密にマシニング加工される等角接触用途などで、形状を維持して確実に機能する必要がある場合に重要です。
多くのエンジニアリング用途では、熱可塑性樹脂など、低摩擦係数と摩耗耐性を持つ材料が求められます。エンジニアリングプラスチックは、一般的に、同様の用途において金属よりも摩擦係数が低くなります。また、多くの場合、高機能プラスチック材料には自己潤滑特性があるため、長期の摩耗や荷重耐性が要求される用途に最適です。
特に準結晶性熱可塑性樹脂は、靭性とシャープな融点のため、摩耗、ベアリグ、摩擦の用途できわめて優れた性能を発揮します。中でもアセタール(POM)、ナイロン(PA)、超高分子量ポリエチレン(UHMW-PE)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリアミドイミド(PAI)は、金属との摩擦接触が多い部品に最もよく使用される、摩耗耐性がある熱可塑性材料です。
金属またはその他の摺動面と比較して、摩耗耐性のあるエンジニアリングプラスチックには、高摩擦用途におけるメリットがあります。
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低摩擦率と自己潤滑特性で注油の必要性が削減される
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摩耗率を予測できるため、計画外のメンテナンスやダウンタイムが削減される
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動作の信頼性が向上し、平均修理間隔(MTBR)が長くなる
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はめ合い部品間の騒音が少なくなる
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食品と接触する用途では、金属屑や潤滑油による汚染のリスクが削減されます
Techtron™ HPV PPS製のコンベアベアリング
課題:プラスチック廃棄物を溶融し、押し出し成形によってリサイクルロッドを製造する施設で使用される、材料コンベアの金属ベアリングには、頻繁なメンテナンスが必要でした。高温の製造環境では蒸気が発生し、金属ベアリングのグリースを減少させるため、摩耗が進み、コンベアが停止する原因となっていました。
ソリューション:弊社のTechtron™ HPV PPS材料を使用して、コンベアの既存の金属軸受とフランジブロックにはめ込むことのできる、低摩擦、自己潤滑性インサートベアリングを作成しました。
結果:高機能のPPSベアリングは、潤滑の必要性がなくなっただけでなく、高温でも摩耗および強度の特性を維持しました。さらに、腐食しにくく、マシニング加工と高温多湿の製造環境の両方で寸法安定性を示しました。
TIVAR™ UV UHMW-PE製のソーラーパネルのピボットブッシング
課題:ソーラーエネルギーの吸収率を最大限に高めるために、太陽光発電パネルは太陽の方向に合わせて旋回します。この動作を可能にするには、屋外での使用時や紫外線にさらされる環境下であっても、1日中形状と性能特性を維持する等角ピボットブッシングが必要です。
ソリューション:屋外環境での耐久性と優れた安定性を示すことから、弊社のTIVAR™ UV UHMW-PE材料が選ばれました。
結果:TIVAR™ UVブッシングは、低摩擦、低騒音で紫外線耐性と自己潤滑性を備えており、この用途に理想的な摩耗特性を示すだけでなく、保証期間を通じてこれらの特性を維持します。無吸湿性で、潤滑剤は腐食も凍結もしないため、常に雨風にさらされていてもメンテナンスが不要です。
ウイングフラップに自己潤滑性のある摩耗ストリップを使用して、コストと航空宇宙業界における排出量を削減
弊社の自己潤滑性のDuratron™ T4301 PAI材料を使用して、複雑で多大な労力のかかる部品を置き換える部品を作成しました。
弊社の摩耗耐性PAIソリューションによって、故障のリスクが低減された軽量の航空機を製造でき、メンテナンスと排出量も削減されました。この部品は非常に高性能であったため、それ以来、航空宇宙業界で広く採用されています。
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摩擦係数(CoF)とは、ある材料の表面を別の表面上で滑らせたときに生じる抵抗を示す数値です。 熱可塑性材料のCoF値を取得する標準的な方法は、ASTM D3702です。この方法では、材料を比較して、その摩耗性能を予測することができます。
ASTM D3702試験では、ポリマーのサンプルが研磨されたスチールスラストワッシャーの上に置かれます垂直抗力がかけられます。次に、トルクをかけてプラスチックを回転させます。CoF値は、合わせ面に作用する2つの力である滑り力(トルク)と垂直抗力の比率から導出されます。この比率が低いほど、材料の表面は滑らかです。
摩擦下での材料の挙動を理解する上で重要なCoF値に、静摩擦係数(静CoF)と動摩擦係数(動CoF)の2つがあります。
静CoFは、初期動作(静止から回転)時の滑り力と垂直抗力との比率を示します。動CoFは、ワッシャーが動き出してからのこれらの力の比率を示します。通常、初期動作には動きを維持するよりも大きな力が必要になるため、静CoFが動CoFよりも大きくなります。静CoFと動CoFの値の差が大きすぎるとスティックスリップが発生し、合わせ面の移動時に望ましくないガタガタした動きが見られます。
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摩耗率(K係数とも呼ばれる)は、材料の摩耗耐性を示す数値です。 エンジニアリングプラスチックのK係数を計算するには、QTM 55010試験方法を使用します。この試験ではスラストワッシャーではなく、ジャーナルベアリングを使用します。
K係数は圧力(加えられた荷重)、速度、そして経過時間の変数から計算されます。K係数が小さいほど、試験対象の材料の摩耗耐性が高くなります。
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限界圧力速度(限界PV)は、合わせ面が耐えることができる最大圧縮を表す数値です。
エンジニアは限界PVを使用して、システムに障害が発生するような過度の摩擦熱が生じる圧力と速度の条件を把握することができます。限界PVは、特定の表面に加えられる荷重とトルクの速度に基づくQTM 55007方法を使用して計算します。限界PVが大きいほど、材料はより大きな圧縮と摩擦熱に耐えることができます。